日本一の規模を誇る約23,000haに及ぶ阿蘇の草原(野草地・牧草地)は、平安初期に書かれたといわれる「延喜式」にすでに記録があり、少なくとも遠く平安時代から続いているとされています。 阿蘇の草原植生は、気候などの自然条件によって成立しているわけではありません。この地域の気温や降水量から判断すると、自然のままに植生が遷移すれば、森林に覆われるのが本来の姿です。それが草原の姿にとどまっているのは、火山活動や透水性の良い地質の影響とともに、野焼き・放牧・採草などの人為によって森林に向かう遷移の進行が妨げられ、自然と人為がうまく調和しながら草原が維持されてきたからです。 戦前や平安朝時代はかやぶき屋根材料や軍馬の生産地であったり、戦後は農耕用牛馬、現在は肉用牛などの飼料採草地であったりと、その役割は時代とともに変わってきていますが、いずれにしても世界にもあまり類を見ない美しい波状丘陵の続く阿蘇の大草原は、千年以上もの長い間、人と牛馬、自然とによって形づくられてきた人文景観です。
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