平成14年度 地域通貨勉強会の報告

第1回 10月16日(水) 南阿蘇ルナ天文台にて
 阿蘇リーグの情報・交流委員会の中で、阿蘇ファンクラブがこの夏に立ち上がり、インターネット上で活動を開始したばかりですが、それと姉妹関係にある阿蘇フォーラムも、「阿蘇まるごとフェスタ」の開催の準備に入っています。
  そこで、委員会のなかで立ち上げが遅れていた地域システム部会の立ち上げをし、活動をいよいよ始めたいと思います。
この地域システム部会では、地域の社会構造を切り口に、明日の阿蘇を模索するものですが、内容としては循環型の社会モデルの実現を目指すものです。
  そこでまずは、最近話題の地域通貨の勉強会から始めたいと思います。
地域通過こそ、マネーに置き換えられない地域の資源の域内循環を図るものであり、未来に大きな可能性を秘めています。
  グローバリズムや市場経済至上主義によっておびやかされている地域の特性や文化を基にした、新たな経済社会システムの構築は、これからの世界に何よりも求められているところだと思います。
  スローな社会の実現の理論的根拠になりうる地域通貨の導入は、阿蘇の今後に不可欠なステップに思われます。
つきましては小規模な勉強会から始めたいと思います。

第2回 10月28日(月) 広域行政事務組合にて
 前回から始まった地域通貨勉強会、阿蘇の社会経済構造の明日を考える試みですが、第2回の勉強会は10月28日(月)PM2:00より、阿蘇市にある広域行政事務組合の新庁舎にて行ないました。

第3回 11月13日(水) 広域行政事務組合にて
 前回同様、広域行政事務組合にて行われました。

第4回 11月25日(月) 午後2:00より、阿蘇市の阿蘇テレワークセンターにて
 阿蘇市の内牧の湯浦にあるテレワークセンターで行われた今回は、パーマカルチャーネットワーク九州の松下さんから、キューバ訪問の報告がありました。
 キューバはソ連圏が崩壊してから援助物資などを受けられなくなり、食料危機に陥った。そして、それを乗り切ろうとエネルギーと食料の自給自足を目指すため、自立型の自然エネルギー開発と、利益を目的としない循環型社会の形成に乗り出した。そして今や、マネー・国家通貨に依存しないで、日常生活を楽しむようになった。そうしてみると、現代社会はお金に対して思い違いをしているようで、資本が構造的に搾取や差異を生み出しており、ゆとりや豊かさを生むのはマネー・国家通貨ではないのではないだろうか。これは社会主義も同じことで、社会主義というのは実は独裁による国家資本主義のことだったのではないか、といったたいへん興味深いお話でした。
 そのあと、意見交換があり、資本主義と欲望の話、日本の木材や食糧の自給率の話、気持のやり取りや理解が地域通貨には不可欠であること、などなど話が弾みました。

第5回 12月9日 (月) 障害者小規模作業所「夢屋」にて

今日の地域通貨勉強会は、一の宮町の阿蘇神社の参道にある障害者小規模作業所「夢屋」で行なわれました。
この冬一番の寒波で小雪の舞う中、小さな喫茶店風の素敵な木作りの作業所での会議です。
 
  今回は具体的な地域通貨導入にあたり、まずは小さなモデル化を考えるため、実際の現場の事情を聞きながら、みんなでその可能性を話し合うことになりました。
 この夢屋は代表者の宮本誠一さんが中心となって運営しています。
 そして、パンつくりを行ないながら障害者の支援を行なっています。
 彼がときどき困ったなと思うのは、何人もの人たちが支援を必要としているときに、自分だけの力や時間だけでは足りないなと思うときです。
そんなとき、気持や助け合いをやり取りできる仕組みがあって、もっと多くの方と助けあいができたらどんなにいいだろうと思うのです。
 
  そこで、みんなから出た意見は・・・、何かをできる人、してあげたい人はたくさんいるかも知れない、そういう人たちの「できることリスト、してもらいたいリスト」を作って、広場をつくろう、掲示板をつくろう、ネットワークの輪をひろげよう、そしてその交換の仕方をみんなで話し合って決めよう、ということでした。
 
 そうだ、それなら普段からいつもしていることの輪をひろげるだけでいい、自分ができないことを、ほかの人たちがやってくれるかも知れない。
いつも、顔をあわせている人たちに呼びかけよう。
みんなにしてもらいたいこと、してあげたいけどできないことを、正直に話そう。
ただ、だまって気持を伝え合うだけではなく、それを形にする少しばかりの勇気を持とう。
そうすると、その輪がひろがるかも知れない。
そういう話になりました。
 
 さて、これからどういう風に夢屋のみなさんで話し合われるのか、また次の機会に聞いてみることにして、私たちも引き続いてこのモデル化に関わることにしています。


第6回 12月25日(水) 午後2時から「夢屋」にて

 今日、阿蘇の一の宮町にある障害者小規模作業所の「夢屋」さんにて、地域通貨勉強会がありました。
「夢屋」さんでの2回目です。
 出席は、パーマカルチャーネットワークの松下さん、産山村さわやかビーフの井さん、南阿蘇村の大津さん、吉田さん、テレワークセンターの松本さん、小国町の松田さん、北海道から郷原さん、「夢屋の宮本さん、下原さん、竹原さん、そしてルナ天文台から宮本と五百蔵の12名でした。

  前回は、具体的な地域通貨導入にあたり、まずは小さなモデル化を考えるため、「夢屋」さんを例にとって実際の現場の事情を聞きながら、みんなでその可能性を話し合いました。
その時出た意見は・・・、
何かをできる人、してあげたい人はたくさんいるかも知れない、そういう人たちの「できることリスト、してもらいたいリスト」を作って、広場をつくろう、掲示板をつくろう、ネットワークの輪をひろげよう、そしてその交換の仕方をみんなで話し合って決めよう、ということでした。

  そこで今回は、その後の経過からお話を聞きました。すると、「夢屋」の商品であるパンを買ってもらうことで、これが地域通貨の代わりになり、さっそく宛名書きをして欲しかった方とつながりができて、作業をしてあげる事ができたということでした。
この事例について意見があり、まずは物々交換という一番基本的なレベルで、気持と行動の交換が、早速行なわれたことについての評価がありました。

  また、作業所としての「夢屋」の運営について、その大変さや、障害者だけではなく、お年寄りなどのさまざまな人たちが、地域で生きていけるような社会をつくりたいという「夢屋」のみなさんの想いなどを、語っていただきました。
  そして、それでは「夢屋」のそういう想いに共感して、そのパン6個の詰め合わせと引き換えに、自分ならどんな事ができるかを無記名で書いてもらう「地域通貨ごっこ!?」をやってみました。
  すると、なんとホームページの1ページ分の制作、地域案内1日、翻訳1ページ、野菜10kg、話し相手1時間、ドライブ1時間などなど、びっくりするくらいのお手伝いの申し出が書かれてあったのです!
これには、「夢屋」のみなさんも感激していました。
これは、ただパンの価値だけではなく、それをつくっている「夢屋」さんの想いに共感した価値の部分が、相当入っているのです。

  これで地域通貨というのは、物と物との交換ばかりではなく、参加した人たちの共有する価値観をとおして、コミュニティを作り守り育てていこうとする働きがある事が、実際に実感できました。

  次に、そこで挙げられていた3つの例のうち、1)足もみ20分、2)話し相手1時間、3)年賀状書き60枚分、という申し出を例にとって、今度は「夢屋」のパンではなく、自分が交換として提供できることを書いてもらって、今度は一人づつ発表してもらいました。
すると、それぞれの項目に対して、同じ人でもさまざまに価値の基準が違い、提供できるものも違ってくる事が分かりました。
おもしろいですね・・

  さて次の課題は、ではそれをどう交換するのか、どう流通させるのかという問題になってきますが、それはまた次回のお楽しみ、ということになりました・・・。

  こうして今日は、抽象的に地域通貨を考えるのではなく、「夢屋」さんという現実のモデルを例にして、地域通貨とは何だろう、自分たちが求めているのは何だろうということについて、たくさんの発見をする事ができました。そしてまた、こうして集まり、大いに盛り上がって楽しく語り合うことで、そこに何か大切なものが生まれていくことに、今後への貴重な教訓が隠されているように感じました。

夢屋便り お金の要らない地域福祉を考える 〜地域通貨勉強会(続編)〜

去る12月25日、夢屋で6回目の【地域通貨勉強会】を開催しました。参加者は11名。前回の夢屋便り(2002冬号)の続編です。今回は小国町や産山町からの参加に加えて、なんと北海道からのゲストも参加して、楽しい勉強会になりました。参加者については、最後に紹介します。
 
  夢屋を始めて間もない頃は、地域の皆さんに「福祉作業所・夢屋」を知っていただこうと一生懸命でした。10年経った今、新たな福祉サービスや地域とのつながりを充実していきたいと考えたところ、たどり着いたのが地域通貨でした。勉強会を開いてみたところ、これならやっている事だしこれからもできるぞ、という感じました。この思いを共有していただくために、勉強会の報告をしたいと思います。

  その昔、物々交換をしていた頃には「通貨」は必要ありませんでした。しかし、物々交換はいつも成立するわけではないし、また交換するものによっては腐ってしまう、という弱点がありました。そこで石や貝のような腐らないものを媒体として、それを持っていれば好きな時に好きな物と交換できるようになりました。これは時代が変わっても、私たちが日常買い物をする時に「お金」が果たす役割です。ところが、お金に利子がついたことから、お金は「交換」の役割の他に「貯蓄」の役割を果たすようになりました。するとお金を持っている人が更にお金をもらえることになり、貧富の差が大きくなってしまいました。「地域通貨」は、利子のつかない、純粋に交換するためだけの「お金」を復活させてみよう、という事なのです。

ちょっと複雑な話になってしまいましたので、勉強会で出た簡単な例を挙げてみます。
月末でお小遣いの足りない高校生が夢屋でパンを買いたいとします。その高校生は、代金を支払う代わりに、パンを10軒に届ける事になりました。夢屋としてもこれは助かるので商談が成立しました。これが「自分のできること」をすることで、欲しいものを手に入れる、ということです。よく外食していてお金が足りなそうだと「皿洗いでもしていくか」と冗談で言いますよね。それを本当にやってしまおう、というのが「地域通貨」の考えなのです。このような「商談」は、お互いの需要が一致した時にしか成立しないので、配達してくれる人手が充分になったら、パン作りを手伝ってもらうとか、年末の大掃除をしてもらうとか、そんな風に応用できます。勉強会ではこの例をもっと現実的に考えるため、参加者全員が無記名で「夢屋のパン一袋(6個入り)をお金以外で買うとしたら?」というアンケートをやってみました。そしたら、これが凄いのです!お金では得られない「対価」の数々が出てきたのです。あんまりすごいので、たくさん紹介してみます。

「夢屋のパン一袋(6個入り)をお金以外で買うとしたら?」

¨ 足マッサージ20分 ¨ パン作り1時間 ¨ 配達5〜10軒 ¨ 夢屋通信づくり・レイアウト ¨ パソコン処理45分 ¨ 夢屋広報や手紙の英語訳 ¨ パンの営業 ¨ 野菜(大根、カブ、サトイモ、ネギ、ブロッコリー) ¨ 買い物のお供 ¨ 食器洗い ¨ 名刺カード10枚 ¨ 漬物 ¨ 米と米の加工物 ¨ 夕食のおかず二品くらい ¨ 話を1時間聞く ¨ 本を読んであげる ¨ ビワ温灸を40分間 ¨ テルミー40分間(温熱療法) ¨ 車の運転 ¨ 北海道旅行に来た際、十勝の観光案内 ¨ 天文台の案内1時間 ¨ お客さんを一人連れてくる ¨ テープ起こし3分間分 ¨ このしろ6匹 ¨ 床屋(都合のいい日) ¨ キャッチボールの相手 ¨ 年賀状花器60枚 ¨ 夢屋〜小国までの送迎と温泉案内 ¨ 独身女性を集めます ¨ お薬相談1ヶ月フリー

  地域通貨といってもすぐにはイメージができないので、「地域通貨ごっこ」のつもりでやってみたこのアンケートでしたが、あまりの「豪華な対価」に参加者も興奮、ほんとにやろうか!?と盛り上がりました。余談ですが、パン一袋で「独身女性を集めます」という申し出に大興奮の参加者もいました(笑)。今回はあくまでもごっこです。ちなみに本記事は、夢屋でケーキセットを注文した参加者が、対価として執筆しています。アンケート結果を踏まえて参加者全員で意見交換をしました。共通していたのは、この超豪華な「対価」は、夢屋が福祉作業所であるということを理解しての事で、自分ができる事をして福祉に貢献したい、という気持ちが現れたという事です。
 
  ここまでの例では、あくまでも夢屋とお客さんで通用する「物々交換」に過ぎませんが、地域通貨が目指すのは、地域内でお金と同じような役割です。お金を持っていなくても、自分ができる事をすることで、自分が欲しいものや欲しいサービスを受けたい。そこで次の例として、違うアンケートをしてみました。「足マッサージ20分」または「お話を1時間聞いてもらう」または「年賀状の宛名書き60枚」をお金以外で買うとしたら自分は何を対価として出せるか。ただし、この場合も夢屋の精神を尊重して、という条件にしました。このアンケートの結果は、3つの商品が同じくらいの価値と考える人と、それぞれ価値が違うと考える人に分かれました。同じ商品でも、「買う人」によって評価が違うという事で、興味深い結果でした。ここでは、3つの商品が同じと考える人の対価を紹介してみます。

<3つの商品が同じと考える人の対価>

¨ 家事手伝い小1時間 ¨ 話し相手1時間 ¨ 車での送迎(10キロ圏内) ¨ パソコン処理30分 ¨ 英訳(A4の1枚分) ¨ 夕食作り1回 ¨ 買い物 ¨ お風呂洗い ¨ 肩たたき20分 ¨ 白川駅までの送迎 ¨ 部屋の掃除機かけ
 
  夢屋から直接パン1袋を買う時に比べて「豪華さ」には少し欠ける感じはしますが、これなら立派に地域通貨が機能しそうです。今回のアンケートは、参加者が地域通貨を身近に考えるきっかけ作りとしては大成功だったといえます。交換が上手く成立できるようにするためには、まだまだ考えなければならない事がありますが、読者の方が少しでも「なるほど、地域通貨ってそんな事なんだ」と思っていただければ、これからの夢屋の活動や地域福祉について新たな可能性が生まれることでしょう。これから具体的に考えていくべき項目としては、・交換をスムーズにするためには「通貨」が必要か ・どうやって「売ります」「買います」情報を発信するか ・貯め込まずに使ってもらうためにはどうすればいいか ・自分のできる事がとても限られている人はどうすればいいか などがあります。年明けの1月8日には次の勉強会が予定されています(夢屋にて14時から)。興味のある方は、ぜひご参加ください。

<参加者リスト>
夢屋の宮本さん(一の宮町) ルナ天文台の宮本さんと五百蔵さん(南阿蘇村) 自然計画の松下さん(熊本市) 阿蘇テレワークセンターの松本さん(阿蘇市) さるネットの小林さん(南阿蘇村) 農業者の井さん(産山村) 就農希望者の松田さん(小国町)と大津さん(南阿蘇村) 環境プランナー(自称)の吉田さん(南阿蘇村) ランランファームの郷原さん(北海道・十勝市)


第7回報告 1月8日(水) 午後2時から一の宮町「夢屋」さんにて

 1月17日は、阪神淡路の大震災があった日ですね。
あの時は被災地に日本中から応援の手が差し伸べられ、ボランティア活動や市民団体の活動の転換点になった時でもありました。
悲惨な歴史を繰り返すことの無いように、私たちの地域でも助け合いの心を持って、新たなコミュニティを作っていけたらと思います。

  さて、前回に引き続いて「夢屋」さんでの地域通貨導入をどう進めるかが話し合われました。
そして、具体化のためには他での事例の勉強や、地域通貨そのものについてももっと理解を深めたいという意見が出ました。


第8回 1月20日 (月)午後2時から南阿蘇村の南阿蘇ルナ天文台にて

今回の勉強会では、地域通貨が日本に紹介されるきっかけになったNHKの番組「エンデの遺言」のビデオをみんなで見ました。
この中で、日本や世界の各地での地域通貨の取り組みの実例や、なぜ地域通貨が価値
を問いなおすきっかけになるのか、地域共同体の再生につながるのかを、分かりやすく編集してあります。

地域通貨って何?
それをするとどんな良い事があるの?
むつかしいのかな?
などなど、これまで地域通貨について何も知らない人でも、すぐに話しに加われるような内容でした。

なお、平成14年度の地域通貨勉強会は、これが最終回でした。


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